激しい衝撃とともに、視界が急回転。何が起きたのかも理解できない内に襲い掛かってきた衝撃から頭を庇う。
全身を激しく打ちつけながら回転した体が硬い床に叩き付けられて静止する。ごろん、と転がった拍子に仰向けになった。春とはいえ、学校の廊下はひんやりと冷たい。放課後の廊下は、窓から差し込む夕日に茜色に染められていた。
校庭から届く雑音が、校舎の壁を透過して遠くから聞こえてくる。それはまるでこことは違う遠い世界から発せられているようで、耳に一枚の薄いフィルターが張られているような、そんな不思議な感覚。
ふわふわとした不思議な感覚に包まれる。周囲に人影がないことも、校舎だけが別の世界に隔離されてしまったんじゃないか、という考えを助長した。
夕焼けに染め上げられた廊下。その中で、今倒れている場所だけが一際赤く見える。頭を起こそうとすると、鈍い痛みとともにピチャ、と水の跳ねる音がした。顔を顰めて視線だけを向けると、体を中心に赤い液体が流れ出している。
視界を転じれば、目の前にはそれなりに角度のある階段が目に入る。普段歩いていては大した感慨も抱かないが、地面と同じ高さで見ると高い壁がそびえているように見えた。
―――その先に、つい先程までたっていたはずの階段の踊り場。
ああ、俺、階段から落ちたんだ、と気が付いた。
全身を蝕む激痛。体が金切り声を上げているみたいだ。身じろぎするだけで信じられないほどの痛み。人生で初めて味わう痛みだ。
心なしか、水溜りが広がっているように見える。この全てが体から流れ出しているなんて、とても信じられない。ふいに意識が遠のく。激しい出血と、全身の痛みから楽になろうと体が意識を遮断し始めた。
さっきから感じていた妙な浮遊感の正体は、どうやら血が減ってきたことが原因らしい。
一大事だと認識していながら、それをひどく冷静に見つめている自分がいる。
ああ、このまま死ぬのかな。
ふとそんな単語が脳裏を過ぎる。死。それを表すのはひどく短くて、でも何よりも重みを持った字。
今にも消えようとしている意識の端に何かが写る。
朦朧とした意識がブラックアウトするその瞬間、先程まで俺が立っていた階段の踊り場で、蒼白な顔をした見覚えの或る姿を視界の端に捉えていた。